「ジーン、頑張れ!」


 席から身を乗り出しつつ、わたしは叫ぶ。
 皇女という身分柄、本来ならば表立ってどちらか片方を応援することはできないけれど、今の対戦相手はお父様の護衛だ。それぞれがそれぞれの従者を応援するってことで差し支えない。


 すると、わたしの声が届いたのだろうか? ジーンはカッと目を見開き、攻撃の勢いをさらに増す。スピード、一撃の重さ、それから鋭さが格段に上がっていく。
 やがて、対戦相手の体力が尽きたのか、足がもつれ、尻をついたところで、首筋に刀の切っ先が突きつけられる。すぐに割れんばかりの歓声が湧き上がった。


「すごい、すごい。本当に勝っちゃったね」


 拍手をしながら、わたしはヨハナと顔を見合わせる。


「これは――――本当に驚きました。どうやらわたくしは、あの男の想いの強さを見誤っていたようです」

「え?」


 興奮しきりのわたしとは反対に、ヨハナの表情はどこか浮かない。なんでだろうと思いつつも、わたしはジーンに声をかけた。


「ジーン、おめでとう! ついに決勝ね! さすがわたしの近衛騎士だわ!」


 なおも鳴り止まない大歓声。ジーンがゆっくりとわたしのほうへ歩いてくる。それから彼はひざまずき、まじまじとわたしを見上げた。