(どうして?)


 その瞬間、脳裏にこの大会を開催した趣旨がちらつく。
 いや……そんなまさか。まさかだ。わたしは一人、首を横に振った。


「つ、次の次の試合なんだけどさ! ヨハナの婚約者とライナスが戦うのよね! 楽しみだね、ね! ヨハナ!」


 隣に佇むヨハナを見遣れば、彼女はコクリとうなずいた。


「エイジャックス様はお調子者なので、正直ここまで残れるとは思っておりませんでしたが……ヴィヴィアン様の筆頭侍女の夫が無能では困りますので、結果を残せてよかったです」

「無能じゃ困るって、そんな……」


 ヨハナの物言いはなんとも淡々としている。4年もアタックされ続けた末、ようやく婚約に至った大恋愛だっていうのに、大変ドライな反応だ。


「またまたぁ。本当はエイジャックスのことが好きなんでしょう? しょっちゅうヨハナに会いに来ていたし」

「いえ。彼と会っていたのは、わたくしのサロン活動に必要だったからです。それ以上でも以下でもございません。彼との婚約を決めたのも、それが活動において最善だと思ったからですし」

「あぁ……その、さ。一応聞くんだけど、ヨハナのいうサロンって」

「もちろん『エレン様とヴィヴィアン様を見守る会』でございます!」


 瞳をキラキラと輝かせつつ、ヨハナはグイッと身を乗り出す。わたしは思わずお父様と顔を見合わせた。