「先例を覆していくのは面倒だぞ、ヴィヴィ。前例踏襲が一番楽なのに」

「知ってるけど。それが悪習なら、面倒でも変えていくべきでしょう? そりゃあ最初から最後まで皇族が試合を観戦するとなるとみんなが緊張しちゃうだろうけど、これは大事な人材育成とスカウトの場でもあるわけだし、みんなが皇族に名前を覚えてほしいって思っているわけでしょう? せっかく頑張って戦ってるんだもの。こんな観戦方法じゃよろしくないなぁって思うわけ」

「とかなんとか言って、おまえ本当はエレンが負けるのが怖いんだろう? だから、最初から見ておきたいと……」

「なっ⁉ なに言ってるの、お父様! エレン様が負けるわけないでしょう⁉」


 ありえない! お父様ったら、本気でありえない! エレン様に対してなんて失礼な! 最強魔術師のエレン様が! 史上最強のエレン様が! こんなところで負けるはずがない。 そんなの絶対絶対ありえないのに。


「エレン様は勝つもの。絶対一番になるもの! だって、わたしとそう約束したんだから……」


 勝ってわたしと結婚するんだって。結婚したいんだって。そう仰ったんだもの。


「そうか……どうやら吹っ切れたみたいだな、エレンとのこと」


 憤っているわたしに、お父様はニヤリと笑う。わたしはウッと口をつぐみ、それからフイと顔を背けた。