「ヴィヴィアン様、俺は今日、明確なお返事を求めているわけではないんです」

「え?」


 エレン様は立ち上がり、わたしの傍へとひざまずく。それからわたしの顔を覗き込み、そっと手を握った。


「俺以外の人間にも等しく機会を与えるべきだというヴィヴィアン様の考えはもっともです。ここまですれば誰の目にも公平で、文句の起こりようがない。それに、完全に実力で皇配を選んだとなれば、属国や周辺諸国への牽制にもなります。ですから俺は、あなたの夫が異種武闘会で選ばれることに、まったく異論はありません。俺はただ、自分の気持ちをきちんとヴィヴィアン様に伝えたかったんです」

「エレン様……」


 そもそもわたしとの結婚はエレン様への褒賞の一つだった。それなのに、わたしが悪あがきをしたせいで、エレン様は必要以上に高いハードルを課されている。全部全部、わたしがエレン様との結婚が解釈違いだって騒いだせいなのに――――エレン様は怒ったっていいはずなのに。
 それなのに、エレン様があまりにも優しくて、わたしは涙が溢れてくる。


「いいんです。俺、負けませんから。絶対、誰にも負けませんから。大会で一番になって、実力は本物だったんだって――――皇女ヴィヴィアン様に相応しい男だと自分自身で示します。そうしたいんです」


 エレン様が力強くそう請け負う。
 どうしよう、鼓動がめちゃくちゃ早い。これまでとはまったく種類が違っていて――――ああ、もうダメだ。これ以上自分の気持ちに目を背けられない。認めてしまわなければ、受け入れなければ、頭がおかしくなってしまいそうだ。