「さ、エレン様。どうぞ召し上がってください! 元々が自己満足の作品なので、ちょっと申し訳ないんですけど」


 リリアンはそう言って自信なさげに俺の顔をうかがう。俺は一口ケーキを口に運び、すぐに唇をほころばせた。


「リリアン、美味しいよ。このケーキ、これまで食べた料理のなかで一番美味しい」


 ――――美味しくないはずがない。
 公務から帰ってきたばかりで疲れているだろうに、リリアンが――――ヴィヴィアン様が心を込めて作ってくださったものだから。俺を想って作ってくれたケーキだから。そこにどれだけの愛情が込められているのか、考えるだけで込み上げてくるものがある。

 スポンジとクリームの甘さが、いちごの甘酸っぱさが、自分が今抱いている感情とよく似ている気がして、俺は胸が熱くなった。


「よかった! エレン様に食べていただけて本当に嬉しいです!」

「リリアンも一緒に食べよう? というか、一緒に食べてほしい。俺のこと、お祝いしてよ。元々そのつもりだったんだろう? ……そうしてくれたら、俺はもっと嬉しい」


 俺がそうお願いをしたら、リリアンは頬を真っ赤に染める。それから彼女は「はい!」って幸せそうに微笑んだ。


(ああ、もうダメだ。これは誤魔化しようがない)


 好きだ。リリアンの――――ヴィヴィアン様のことが、どうしようもなく愛しい。
 この瞬間、ロウソクに込めた俺の願いごとは、確固たるものへと変わっていた。