「エレン様⁉ うそうそ! 本当に本当に⁉ エレン様がいらっしゃったの⁉」

「リリアン……今日はシフトに入っていないと思っていたけど、来ていたんだね?」


 俺が尋ねればリリアンはコクコクと何度もうなずく。瞳をキラキラと輝かせ、興奮した面持ちだ。


「どうぞこちらへ! ぜひぜひ、ゆっくりしていってくださいね!」


 リリアンはそう言って、俺を特等席へ連れて行ってくれた。
 店内には他の客はおらず、シンと静まり返っている。いわば貸切状態だ。


「悪かったね、こんな時間に。もう店じまいの準備を――――片付けをしていたんだろう?」

「いえいえ! 片付けなんてとんでもない! 今が佳境と言いましょうか……!」

「佳境?」

「はい! あの、エレン様は甘いもの、お好きですよね? 何度かご注文もいただきましたし、食べれますよね?」


 リリアンが突拍子もないことを尋ねてくる。目を丸くしながら「好きだよ」と答えたら、彼女はパッと瞳を輝かせた。


「よかった! お飲み物はいつもどおり、カプチーノでよろしいですか?」

「うん。それで」

「かしこまりました! それでは少々お待ちください!」


 リリアンが厨房に戻っていく。俺は静かに彼女の後ろ姿を見送った。