と、そのとき、俺はヴィヴィアン様めがけて一人の少女が走ってくるのに気づいた。彼女は己の手のひらをギュッと握りしめ、なにやら必死な表情を浮かべている。


（危ない）


　もしかしたら刃物を隠しているのかもしれない――――俺は咄嗟に杖を振り、少女をヴィヴィアン様から遠ざけた。


「あっ！」


　ふわりと少女の身体が浮かび上がり、騎士たちがようやく少女の存在に気付く。次いで、ヴィヴィアン様が少女の姿に目をとめた。


「そこのもの！　その手の中に一体なにを隠し持っている？　見せろ！」


　騎士の一人がものすごい剣幕で少女のことを睨みつける。少女はビクリと身体を震わせた。


「待って、ジーン。そんなふうに怯えさせちゃダメよ。こんにちは、お嬢ちゃん。わたしと話がしたかったの？」


　騎士たちを間に挟み、一定の距離を保ちながら、ヴィヴィアン様が少女に尋ねる。少女はうなずき、自分の手のひらをそっと開いた。