その日の仕事は、公務で隣町に向かう皇女ヴィヴィアン様の護衛だった。

 彼女の周りにはいつも近衛騎士たちが控えていて、本来ならば俺たち魔術師の出番はない。
 けれど、騎士たちは物理攻撃には強くとも、魔術による攻撃には弱いという特徴がある。このため、皇族が城外以外で公務をする場合には、こっそりと魔術師が付き従う習わしになっていた。


「本当なら、近くで警護したほうが効率がいいんだけどな。ヴィヴィアン様は陛下に似て、すんごい美人に成長なさったしさ。おまえも、側で守ってやりたいと思わない? 皇女様もきっと、おまえがいるってお知りになったら絶対喜ぶのに」


 馬車で隣町に向かうヴィヴィアン様一行を後方から見守りながら先輩が言う。俺はそっと首を横に振った。


「騎士たちの体面も保たなければならないし、そういうわけにはいかないんだろう? こうして俺たちが護衛をしていることも、一部の人間しか知らないことだし」


 皇城内では魔法が使えないという事情もあり、普段、皇族の護衛はもっぱら騎士たちが務めている。彼らはプライドも高いうえ、自分たちこそが皇族を守るという使命感と情熱に溢れている。このため、こういう場面だけ魔術師が出てくることを嫌う人間が多いのだ。

 幸い、魔術師は遠距離からの攻撃・防御を得意とするため、多少離れていたところで護衛にはまったく問題ない。

 俺たちはヴィヴィアン様から一定の距離を保ちつつ、隣町へと向かった。