話は一年半前――――俺の誕生日に遡る。


「おまえ、休まなくてよかったの? 今日誕生日だろう?」


 あくびを噛み殺しつつ、先輩が俺に尋ねてくる。時刻は通常の出勤よりも数時間早い日の入り前。周りの魔術師のほとんどがとても眠そうな顔をしていた。


「別に、休んだところですることも行くところもないですし、自分の誕生日に特段思い入れもありませんから」


 ローブを羽織りつつ俺は答える。けれどその瞬間、なぜか脳裏にリリアンの笑顔がちらついて、俺はグッと唇を引き結んだ。


(……リリアンはきっと俺の誕生日を祝ってくれるんだろうな)


 たとえ俺がその場にいなくても、彼女は一人で嬉しそうに俺の誕生日をお祝いしている――――そんな光景が目に浮かぶ。
 あとで店に顔を出してみようか――――俺は人知れず、そんなことを思った。