「ケーキですか? お誕生日に作ったあの? だけどあれは完全に自己満足の産物で、そもそもエレン様に食べていただく予定ですらなかったのに……」


 あの日はとても忙しい日だった。帝都の隣町で開かれた式典に参加しなきゃいけなかったから、早朝から夜まで、一日中城の外にいなきゃならなくて。

 だけどわたしは、どうしても自分なりにエレン様のお誕生日をお祝いしたかった。こっそり誕生日プレゼントを贈るだけじゃなくて、エレン様がこの世に生まれてきてくださった喜びを、ゆっくりと噛み締めたかった。

 だから、公務の帰り、閉店間際の時間帯にこの店に寄って、わたしはエレン様の誕生日ケーキを作った。エレン様を思って。エレン様が幸せな誕生日を過ごしていることを願いながら。

 それは本当に自己満足のための行動で。だから、エレン様がお店に来るなんて――――本人に食べていただけるなんて、夢にも思っていなかったのだ。


「知ってるよ。あのときもそう言っていたからね。だけど俺は、とても嬉しかったんだ」


 とても感慨深そうな表情。わたしの胸まで熱くなる。


「少し俺の話をさせてほしい。ヴィヴィアン様にも知っておいてほしいんだ」


 エレン様はそう言って、静かに目をつぶった。