「リリアン、聞いて。大丈夫だから。俺――――皇女様のこと、ちゃんと知っているよ」

「知ってる? だけどそれは……みんなが知ってる表向きの顔でしょう?」


 だって、皇女ヴィヴィアンは人前でこんなふうに泣いたりしない。駄々をこねたりしない。誰かに対して謝ったり、頭を下げたりもしない。

 こんなふうに――――恋に焦がれて、我を見失ったりしない。

 わたしとは正反対。それこそがみんなの知っている皇女ヴィヴィアンの姿だから。エレン様に抱いていてほしいと思うわたしのイメージだから。


「違うよ。俺が知っているヴィヴィアン様は明るくて、素直で、純粋で、好きなものに対していつも一直線で。頑張り屋で、凝り性で、目的のためなら手段は選ばなくて。感激屋で、多弁で、心にものすごい熱量を秘めた人なんだ」


 エレン様が優しく微笑む。これ以上嗚咽がもれないよう、わたしは唇を引き結んだ。


「ヴィヴィアン様は――――俺のことが誰よりも、なによりも大好きで、いつも俺の幸せを一番に考えてくれていて。魔術師団に寄付をしたり、こっそり誕生日プレゼントを贈ったり、私室を俺色に染めたり、推し活費用のためにカフェの経営まではじめてしまうような人で」

「……!」

「泣き虫で、意地っ張りで、温かくて。それから世界で一番可愛い人。俺の好きな人なんだよ」


 エレン様はそこまで口にすると、とても穏やかに目を細める。

 どうしよう。
 涙が一気に引っ込んだ。