「ねえ、リリアンは俺の一番のファンを自称しているのに、聞かないんだね? 俺と、皇女様との結婚のこと」

「あ……そ、それは」


 しまった。いきなりそんなところまで話が飛躍するとは思っていなかった。
 心の準備があまりにも不十分で、心臓がドキドキと鳴りはじめる。


「ファ……ファンだからこそ、推しの恋愛とか、結婚とか、そういうのはとってもデリケートでナーバスな話題なんです。エレン様の幸せを思えばこそ、今回のお話についてはわたしにも思うところがあるというか、なかなか複雑な心境といいましょうか。できれば避けたいなぁという状況でして……」


 しどろもどろになりながらも、わたしはなんとか今の気持ちを伝えた。
 エレン様は優しいし、無関係な人間――――リリアンに対して結婚の話を続行はしないだろうと高を括って。

 けれど、エレン様は小さく首を横に振った。


「だけど、今の段階で避けていたら、実際に結婚したときにもっと困るだろう?」

「――――しないもん」

「うん?」

「困ったりしない。だって、エレン様は結婚なんてなさらないもん」


 我ながらまるで子供みたいな物言いだ。だけど、これがわたしの本音だもん。本当のわたしだもん。

 ムッと唇を尖らせていたら、エレン様はふふっと声を上げて笑う。それからなにを思ったのか、立ち上がってわたしの頭を撫でた。