「本当に、無事でよかった……」


 言いながら涙が溢れてくる。

 遠征に行くことをエレン様から打ち明けられたのは『ヴィヴィアン』じゃなくて『リリアン』だった。だから、あのときのことをエレン様と話すのは今日がはじめてだ。
 そのせいなのかな? 涙、とまらない。
 エレン様はそっと目を細めた。


「当たり前だよ。約束しただろう? 手柄を立てて帰ってくるって」

「そうですけど、それでもわたしは心配だったんです。すっごくすっごく心配だったんです。エレン様になにかあったらどうしようって! エレン様には手柄なんて必要ないのに」

「必要だったんだよ」


 泣きじゃくってダメダメなわたしに、エレン様が優しく微笑んだ気配がする。わたしはそっと顔を上げた。


(どうして……?)


 ――――本当なら、そう尋ねるべき場面なのだろう。

 だけどわたしは、エレン様がどうして戦地に赴いたのか、その理由を知っている。手柄が必要だったその理由を、彼自身の口から聞いている。

 手柄を求めたのはわたしと――――ヴィヴィアンと結婚をするためだったんだって。