「仕事のことならまったくお気になさらず。見てのとおり、今は忙しくありませんし、エレン様はお得意様ですし、推しとお茶ができるまたとない機会ですから」


 その瞬間、わたしの手からオーダー表がヒョイと取り上げられる。振り返れば、ジョアンナに扮したヨハナが、慈愛に満ちた笑みを浮かべてこちらを見つめていた。


「ジョ、ジョアンナ……」


 ありがたいけどありがたくない。
 そんなふうに言われたら逃げられないじゃない?


「ほら、店からのお許しも出たことだし、座って? それとも、リリアンは俺と話したくない?」


 今度はエレン様がわたしを見つめてくる。ずるい。わたしがエレン様にめっぽう弱いことを知っていて。本当にずるい。


「お話したいです!」


 だけど、推しのお願いを断るなんてやっぱり無理。わたしにはできない。
 自分でもどうしようもないなぁと思いつつ、わたしはエレン様の向かいの席に座った。