「そうだね……それじゃあカプチーノを2つ」

「2つですか? 珍しいですね。あとからお連れ様がいらっしゃるご予定なんですか?」


 思わぬことにわたしは目を丸くする。
 初来店の日以降、エレン様はずっと一人でこの店に来ていらっしゃる。一人でゆっくりするほうが好きだとばかり思っていたのに。


「うん。実はリリアンに俺の話し相手になってほしいなぁと思って」

「えっ⁉ わたしですか?」


 驚くわたしに、エレン様はコクリと大きくうなずく。彼は次いで「ダメかな?」と無垢な瞳で尋ねてきた。


「だっ、だけどわたし、仕事がありますし……」

「ダメかな?」


 エレン様がさっきと同じ言葉を繰り返す。
 ああ、ダメ。そんな瞳で見つめられたら心が揺らいでしまう。「いいよ」って答えてあげたくなってしまう。
 だけど、それじゃ他のみんなに申し訳が立たないし、エレン様と上手にお話できるか自信ないし。ここはひとつ、エレン様を傷つけないよう丁重にお断りしなければ――――