「心配しないで。久しぶりにカフェに来てゆっくりしたかっただけだよ。お茶をしたら魔術師団に帰るし、リリアンが気にするようなことはないから」

「え? だけど……」

「本当に。体調が悪いわけじゃないんだ」

「そう……ですか」


 チクリと、ほんの少しだけ胸が痛む。
 どうしてだろう? 体調が悪くないならホッとすべき場面だっていうのに。
 自分の感情がちっともわからなかった。


「お席にご案内しますね」


 モヤモヤを押し隠しつつ、わたしはエレン様を特等席へ案内する。エレン様は「ありがとう」って言いながら、とても穏やかに微笑んだ。


「ご注文は――いつもどおりでよろしいですか?」


 ここに来たらいつも、エレン様はカプチーノをオーダーする。
 前回――――わたしの誕生日の夜は、彼の好みに反して紅茶をいれることになったから、今回は腕によりをかけて準備しなければならない。わたしは密かに気合を入れた。