「なあ……笑ってるけど、おまえ、いいの?」

「なにがですか?」

「いやさ、ここで負けたらおまえと皇女様との結婚話が流れるんじゃない? というかこれ、他の候補者を炙り出すために開こうとしてるんだろう?」

「そうでしょうね。だけど俺、負けないので」


 ハッキリと断言すれば、先輩は目をパチクリさせながら息を呑む。


「いや、おまえさ、そこは『負ける気がしない』ぐらいに留めておかないと、自分でハードル上げ過ぎなんじゃない?」

「いいえ、負けません」


 これはヴィヴィアン様が己を諦めさせるために必要なこと。俺以外に彼女の夫にふさわしい男がいないと確かめるための大会だから。
 だから、なにがあっても俺は負けない。自信がある。そうでなければ、ヴィヴィアン様の夫なんて務まらないだろう?


「ところで先輩、()()()()の直近の出勤予定はわかりますか? ここしばらくは誕生祝いの夜会や茶会、通常の公務に加えて、俺との結婚話で店に顔を出す時間がなかったみたいなんですけど」


 とはいえ、正攻法だけで攻めていては埒が明かない。俺の気持ちをきちんと伝えるためには、どうしてもリリアンとしてのヴィヴィアン様が重要な鍵を握る。


「え? ああ、聞いてない、というか予定が入ってないみたいだけど……わかった。確認しとく」

「お願いします」


 俺が頼めば先輩は笑う。


「――――まったく、俺の雇用主たちは人使いが荒いな」


 それから、誰に向けられたものかわからない呟きに、俺はそっと微笑むのだった。