夜会会場に戻ったら、エレン様はわたしたちの椅子の前に佇んでいた。ただ立っているだけなのにめちゃくちゃ絵になるし麗しい。本当に現実離れした美しさだ。


(エレン様、あんな唐突にいなくなったのに、わたしたちを待っててくださったんだな……)


 エレン様のそういう律儀なところが好き。大好き。
 と同時に、申し訳なさと罪悪感が胸を突く。

 だけどエレン様は、わたしを見るなりとても穏やかに微笑んでくれた。わたしの推しは本当に、最強で最高だ。


「ヴィヴィアン様、陛下とのお話はお済みになったのですか?」

「ええ、つつがなく。実は少々、父と行き違いが生じていたようで」


 気まずさを誤魔化すため、わたしはニコリと微笑み返す。


「そうでしたか。それで、ヴィヴィアン様のおっしゃる行き違いとはどんなものなのです?」

「それは……その、先ほど父が言ったことなんですけれども」


 ことはエレン様の一生を変えうる大きな大きな行き違いだ。わたしの結婚について、お父様なら悪いようにはしないだろうと高をくくっていたのが裏目に出てしまった。本当は、推しへのスタンスをもっとハッキリと見せておかなければならなかったんだ。完全にわたしの失態だ。


(本当に、なんてお詫びをしたらいいんだろう。わたしが推しているばかりに、エレン様に嫌な思いをさせてしまうなんて……)


 このままじゃ、わたしは自分で自分を許せそうにない。彼の心を煩わせた分だけ償いをしなきゃ。慰謝料をたっぷり用意して、彼に見合う素敵な女性を見つけて、エレン様の望む将来を用意しないと――――