「だろうな。正直、皇女様もこれ以上は打つ手なしだと思うんだが――――お、なんか来たな」


 先輩はそう言って手のひらを大きく広げる。その上に浮かび上がる魔法陣、ややして一枚の紙片が彼の手の中に収まった。


「それ、ヴィヴィアン様の情報ですか?」

「ああ。これが来たら、さりげなくおまえに横流ししろっていう合図なんだよなぁ。どれどれ?」

「……さすがにもう少し、内情を隠したほうがいいんじゃないですかね?」


 これまで先輩に助けられてきたのは事実だけれど、ここまでオープンにされてはこちらがかえって気を遣う。俺は小さく首を傾げた。


「えっ⁉」

「なんですか?」


 先輩は声を上げたっきり、口の端を引き攣らせて固まっている。俺は背後から、先輩の手元を覗き込んだ。


「――――異種武闘大会、ですか」


 呟きながら俺は思わず笑ってしまった。
 異種武闘大会――――前回大会が二十年以上の前のことのため、実際に見たわけではないが、当然どんなものかは知っている。
 発案者は間違いなくヴィヴィアン様だろう。彼女の思惑も、どうしてそんな催しを開くことになったのかも、手にとるように理解できる。客観性に優れている上、いろんな目的を効率よく達成できる、ヴィヴィアン様らしい手法だ。