「え……?」


 その途端、先輩は微笑のまま固まってしまう。俺はニコリと笑みを深めた。


「いやいや、魔術師団は皇帝陛下の持ち物じゃん? つまり、俺たちの雇用主っていうと、陛下ということになるわけで……」

「いえ、魔術師団員としてではなく、密偵としての――――俺の動向を探りつつ、ヴィヴィアン様の情報を流すにあたっての雇い主の話です」


 身を乗り出し、俺は先輩の瞳を覗き込む。
 先輩はニコニコと微笑んでいたけど、やがて小さく息をついた。


「いつから気づいてたんだ?」

「割とはじめのほう……っていっても、俺がカフェに通いだしたあとぐらいですかね」


 俺は当時を思い出しながら目をつぶる。

 そのときはまだ、リリアンがヴィヴィアン様であると気づいていたわけではなくて。けれど、日常のなかでどうにもヴィヴィアン様の存在を感じることが多くて。

 なにやら見えない力に操作されているような、そんな違和感を感じたのがキッカケだった。

 魔術師団をヴィヴィアン様が覗きに来ていることを教えてくれたのも先輩だし、カフェに誘ってくれたのも先輩だし、彼女のシフトについて教えてくれたのも先輩だ。以降も、先輩からはことあるごとにヴィヴィアン様とリリアン、両方の情報をもらっていた。偶然にしてはできすぎている。裏になにかがあると勘ぐるのも当然だ。