「大体、おまえはエレンのことが好きなのだろう? それなのに、こんなふうに憤るのは矛盾していないか?」

「矛盾? してないわ」


 きっぱりそう答えると、わたしはまじまじとお父様を見上げた。


「お父様が仰るとおり、わたしはエレン様が好きです。大好きです! お父様よりもお母様よりも、この世の中の誰よりも好き。尊敬しているし、崇めているし、本当に素晴らしい男性だと思っていて――――」

「ヴィヴィ、そこまで言われたらさすがに父様も傷つくんだが……」

「だからこそ、彼には誰よりも幸せになってほしい。素晴らしい女性と巡り合って、いつも笑っていてほしいんです。少なくとも、皇帝命令で意に染まない結婚を強要されるなんて、絶対にあっちゃいけないことなの!」


 そうよ。こんなこと、絶対にあってはならない。
 わたしごときのためにエレン様を不幸にするなんてダメ。絶対にダメ!


「ヴィヴィ、それは……」

「こうしちゃいられない! 急いでエレン様を解放してあげないと」


 推しの貴重な時間は一分、一秒でも無駄にしてはならない。
 わたしなんかと婚約するように命令されて、きっとものすごく困っているに違いないもの。

 わたしはお父様がとめるのも聞かず、急いで夜会会場へと戻った。