「元気をだしてください。いつものヴィヴィアン様らしくありませんわ」

「……わかってるわ。わかってるんだけど」


 本当は立ちどまっていられる時間なんて一秒もない。時間は有限だもの。大事に使わなきゃならない。こんなふうに膝を抱えている暇があったら、今日のために調整してもらった公務とか、エレン様のお部屋の再現とか、そういったことをすべきだろう。
 だけど、ずっと全速力で駆け抜けてきたからかな? 仕事も、推し事も、いつもいつも全力で、脇目も振らなかったからかな? 立ちどまることがなかったからかな?


「ちょっと疲れちゃった」


 きちんと立ちどまって考えるのって、案外とても難しい。その間まったく前に進めていない感じがして自己嫌悪に陥るし、焦ってしまう。必要以上に迷うし、悩む。
 本当は早く結論を出して楽になってしまいたい。どんな結論を出せばことが済むか、わかってはいるんだけど――――。
 

「――――失礼いたします、ヴィヴィアン様。おくつろぎのところ、申し訳ございません。少しよろしいでしょうか?」

「ん? どうしたの?」


 ヨハナとは別の侍女が心底申し訳なさげに声をかけてくる。わたしはソファに腰かけ直した。


「実は今、ライナス様がお見えになっているのです。ヴィヴィアン様とお話がしたいと……事前にお約束もしておりませんし、お断りしましょうか?」


 なるほど、侍女が慎重になってしまうのもよくわかる。ただでさえ困っているわたしを、さらに困らせたくなかったのだろう。


「いいよ、会う。とおしてくれる?」


 ライナスは本件の当事者だし、わたし一人で悶々と悩んでいるよりずっといい。
 ややして、ライナスがわたしの部屋へとやってきた。