「俺はヴィヴィアン様に騙されているのかもしれません」


 ようやくエレン様を救い出す手がかりを掴めると期待したのに――――かえってきたのはあまりにも思いがけない返事だった。


「……わたし?」


 エレン様が頷く。私は思わず身を乗り出した。


「そんな……まさか。わたしがエレン様を騙すってどういう状況なの? こんなに! こ〜んなにエレン様のことを敬愛しているのに!」

「……敬愛しているという割には、ヴィヴィアン様は俺を信じてくれないんですね。俺が誰かに騙されていると信じて、ちっとも譲ってくれないし」


 拗ねたような表情で、エレン様が肩を竦ませる。わたしは慌てて首を横に振った。


「だってそれは! わたしからすれば、エレン様がわたしと結婚したいとか、可愛いって言うこと自体がありえない話で……」


 その瞬間、エレン様が力強くわたしの腕を引く。


(な! なっ、なっ、な!)


 なに? なんなの? なにが起きているの?
 わかるのは、ふわりと漂う香水の香り。エレン様の鼓動の音。それから、わたしの身体を包み込む逞しい腕。
 状況を客観的に整理するに――――多分、わたしは今エレン様に抱きしめられている。