「ないですよ。俺、そういう暗示にはかからないたちですし、怪しい人間にはそもそも近づきません。自分から交友関係を広げようというタイプでもありませんし」

「……本当に?」

「もちろん」


 エレン様はためらいなくうなずいたあと、そっと首を傾げる。思わず守ってあげたくなるような純粋無垢な表情だ。


「でもでも、エレン様はお優しいから、話を聞いているうちに或いはってこともあるかもしれないじゃない? 世の中にはいい人の皮を被ったたくさん悪い人がいるんだもの! エレン様はあまりにもいい人だから、そういう人にまで公平に接してしまうだけで」

「俺、案外疑り深いですよ? 割と慎重なほうですから、腹に一物のある人間はすぐに気づきます。それに、人を見る目はあるつもりなんですが」


 エレン様はそう言って、わたしのことをよしよしと撫でる。不覚にも、またドキドキしてしまった。


「ただ、そうですね……強いて言うなら――――」

「強いて言うなら⁉ なに⁉」


 ようやく思い当たる節が出てきたのだろうか? わたしは思わず身を乗り出す。


「俺はヴィヴィアン様に騙されているのかもしれません」