エレン様が合図をすると、侍女たちがすぐにティーセットを運んできてくれた。いれたての熱いコーヒーだ。

 本当なら、豆の産地とか、ティーカップが去年の誕生日にわたしが贈ったものだってこととか、美味しそうなお茶菓子のこととか、そういうことに思いを馳せたいところなのだけど、わたしは今それどころじゃない。エレン様との物理的距離が近すぎるからだ。


(隣⁉ 隣に座るんですか、エレン様⁉)


 既に腰かけたあとで反対側に座り直すわけにもいかないし、かといってこのままだとわたしが酸欠になる。エレン様がこっちを見ている気配がするし(ドキドキして確認できないけど!)、このままでは死あるのみだ。


「あの、エレン様」

「ん? どうかした?」

「ちょっと近すぎじゃない? このままだとコーヒーが飲みづらい気がするなぁ、なんて……」


 ダメだ。皇女のくせに威厳ゼロ。もっとハッキリ喋らなきゃって思ってるのに、エレン様の前では上手にできない。


「コーヒー、飲みたいですか?」


 キョトンとした表情でエレン様が尋ねてくる。心底驚いている様子だ。

 別に喉が渇いているわけじゃないし、コーヒーを飲みたいかって言われると答えは否だ。だけど「いいえ」と答えそうになったところで、わたしはゴクリと言葉を飲み込んだ。