まさかお父様がわたしとエレン様を結婚させようとするなんて想像もしていなかった。だって、エレン様は人間であって人間でない――――結婚なんてそんな考えに馴染むような人じゃないんだもの。いくらわたしが推しているからって、結婚相手に選定しようとするなんて夢にも思わないじゃない? 本当に寝耳に水だった。


「エレン様が結婚をするなら、お相手は世界一美しくて、世界一頭がよくて、世界一優しい、人間を超越した女神のような女性じゃなきゃダメよ。神様がお認めにならないわ」


 だって彼は神様の気まぐれでこの世に遣わされた聖人だもの。普通の人間と結婚なんてしたらバチがあたってしまう。
 たとえ世界一の美女が相手でもエレン様の美しさには敵わないだろうけど、美形がふたり並んだら眼福に違いない。そのときはエレン様単推しじゃなく、CPで推せるように努力する。頑張ってきちんと祝福する。
 お抱え絵師に絵を描いてもらって、婚礼衣装をプレゼントして、エレン様が大好きなユリの花をたくさん用意して、それから、それから――――


「ヴィヴィ、言っておくがそんな女性はこの世のどこにも存在しないよ」


 お父様が妄想を遮る。わたしは思わずムッと唇を尖らせた。