(ああ……なんて素敵なの。永遠に見ていられる)


 広間を見渡せる特等席に座れることを、今夜ほど嬉しく光栄に思ったことはない。

 夜空のように麗しい漆黒の髪、神秘的な光を宿した紫色の瞳、真っ白な肌、整った鼻梁、すらりとした長身に、優美で上品な立ち居振る舞い。金の魔法陣が刺繍された黒い外套があまりにも似合っているし、トレードマークのアメジストのピアスが耳元で揺れているのが最高にカッコいい。
 由緒正しい侯爵家の二男で、人柄は清廉潔白そのもの。魔力の量も技量も誰よりも優れているうえ、それをちっとも鼻にかけない謙虚なお方。誰にでも公平で優しくて、神様が気まぐれで帝国に遣わした天使というか聖人というか――――もはや人と同列に語ることは許されない。

 どこを切り取っても完璧な男性――――彼こそが我が帝国が誇る最強魔術師エレン・ドゥ・フォルディー様、わたしの推しだ。


 彼はその天才的な魔術手腕で若くして数々の手柄を立てていたのだけど、他国からの侵略を退け、国境を守りきったことにより、英雄としての呼び声が高くなっている。だけど、わたしからすれば英雄なんて呼び方は生ぬるいし、彼を崇め称えるには不十分だと思う。

 そんなエレン様が今、この広間に降臨している。これを奇跡と呼ばずしてなんと呼ぼう。わたしは感動のあまりむせび泣いた。