淡々と講義を受けて講義室を出ると


目の前には紺に染まったキャンバスが広がっていた。


壁一面鏡張りの窓は解放感があるけれど


落ちてしまいそうで胸が締め付けられる。


「じゃあね」


奏音は次も講義だから慌ただしく階段を降りていった。


資格課程を履修していて


私よりも忙しい日々を送る奏音はこの後バイトらしい。


奏音の背中を見送りながら


今日は寄り道をすることに決めた。


私の住んでいるところは住宅街ばかりだから


行くといっても公園かファミレス。


けど、バイトをしておらず金欠の私には


ひとつしか選択肢はないわけで。


迷うことなく家から徒歩2分の公園に寄ろうと決めた。


懐かしいなぁ。


ふとそんなことを思った。


その公園は小春と2人で会う時に


人目を避けたかった私がいつも提案していた場所だった。


お小遣い制でお金のなかった私と小春には


うってつけの場所。


それに、中学生になって住宅街の小さな公園で遊ぶのは


レアなケースだったからいじめっ子に会うこともなかった。


その公園は当時の私の居場所で


私の全てだったのかもしれない。