「……だってその……」

 私は答えを示すように英嗣さんをちらりと見た。

 史人は英嗣さんを見て、状況を理解したようだ。相変わらず察しがいい。

 「椎名さん、家賃についてはご了解頂けてますか?」

 「ああ、それについては内覧して問題がなければまた相談する」

 「相談とは何でしょうか?」

 「君は俺が誰か聞いてからここに来た?」

 「いいえ。でも今なんとなくわかりました。もしかして十階にお住まいでしたか?」

 「ああ」

 「椎名さんというお名前ですから、ピンときました。ただ、社長は離婚されているのはうかがっていましたが、お子さんのことは知りませんでした。もしかして、息子さんでしたか?」