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それから、約2週間後
長かったテスト期間が終わり、部活動が再開する。
テスト最終日の教室はみな悲喜交々で、手応えが芳しくなく落ち込む者、全力を出し切って清々している者、そもそも良い結果を期待しておらず振り切っている者、さまざまだ。
「淳平、最近調子どうよ」
帰りのホームルームが終わり、久々の部活動に淳平が気分を昂らせていると、同じクラスの岩井が声を掛けてきた。やけにニヤついている。
実のところ淳平は、この2週間は高校入学以来一番充足感を感じていた。未央と毎日キスするようになったことも要因のひとつだが、それはきっかけに過ぎない。いちばんは未央とのコミュニケーションの量と質の変化だ。
今までさして気に留めていなかったが、改めて自分の心の所在を見極め、慎重に言葉を選んで発する。すると大切な人がそれを受け取ってくれ、彼女なりの解釈を口にしてくれる。逆に相手からの言葉も受け止め、生じた感情を自分の言葉として返す。このやり取りが今更ながら淳平にはとても新鮮だった。
コミュニケーションを深めるにしたがって、彼女の初めて見る一面にも出会えたし、逆に懐かしい素顔を目の当たりにすることもあった。未央の存在が淳平の中でより大きくなっていった。
...とは言え、先の岩井の問いかけには「(調子は)良いよ」と応えるにはなにやら怪しいニュアンスを含んでいるようだったため、淳平は無言を貫いた。そこへ梶が割り入ってきて、肩を組み、そっと小声で岩井の真意を伝えてきた。
「岩井、彼女とやったんだってよ」
「梶、おま、まだ言うなよ!」
「マジ、なんなんだよ!勉強しろよって話だよなぁ!
なんのための部活動中止期間だよ。イチャこくためじゃねーっつーの。
なぁ!淳平もそう思うだろ?」
「まあ...」
淳平の気乗りしない姿勢を察知した梶が、みるみる顔色を変えていく。わなわなと組んでいた肩を解いて後退りする。
「裏切り者...!」
「いや、俺は何も...」
「いいんだぜ淳平、わざわざ捻くれたやつの味方してやんなくて..」
「クッソ、余裕がある岩井なんて解せねー!」
梶の心からの雄叫びで、数人のクラスメイトが振り返り視線を投げかける。3人はさっさと荷物をまとめて教室を出た。
岩井は引き続きソワソワして、期待を抱いた目で淳平を盗み見している。
「淳平、まじで進展ないの?それとも俺とゴム分け合いっこする?」
「いやいい。それより岩井」
「なになに?」
「その、まじでやったの?」
「おほ、お前!はやるなはやるな!」
岩井はなんだか嬉しそうだ。一方で淳平は神妙な面持ちで続ける。
「なんつーかさ、やった後って気持ち変わんねぇの?」
「.....え?たとえば?」
「わかんねーけど......彼女の方が男のこと苦手になったり、その逆とか」
岩井は、意外な質問に腕を組んで、歩きながら頭を捻らせる。
「んー、俺んとこに限ってはそれはなかったんじゃねぇかな。あの後もLINEとか、遊ぶときとかも態度変わんないし。
でもまぁ、俺のほうは前よりドキドキしてる気がする。『今日はやれるんかな』とか。
期待してて、できなかったときにガッカリしてる自分に罪悪感 感じたりして。
あと、透視できちゃうからさ、いっぺん見ちゃうと。だから、余計何もないとこでムラムラするっていうか。
まぁ一言でいうとムッツリ度が上がったな」
「お巡りさんこの人です!」
「梶ジャマすんなよ!
今オトナの話をしてんだよ」
(岩井の話が、わかるようなわからないような...)
3人は部室に着いて各々ロッカーを開けた。荷物を詰め込んだり、着替えたり、久しぶりなので準備に手間取る。
練習着に着替えている間、なおも隣で続く梶と岩井の口論を遠い喧騒のように聞き流しながら、淳平は未央のことを考えていた。初めてキスした後から、いや正確には、村松に触れられている未央の顔を見て以来、淳平は自分の中にムクムクと湧き上がってきた感情を持て余していた。
