迫田がふと思いついたように、すみれに尋ねた。

「すみれさんの家族の話を聞きたいな。君みたいに優しくて真面目な女性がどんな家庭で育ったのか興味ある。」

迫田の問いかけに、すみれは少し黙り込んだあと、ためらいがちに話し始めた。

「両親は私が10歳の時に交通事故で天に召されました。それまで私は北海道で育ったんです。ひとりっ子で甘えん坊な子供だったと思います。」

「・・・そうか。辛い思い出を話させてしまって悪かった。」

そう言って頭を下げる迫田に、すみれは小さく微笑んだ。

「いいんです。続きを話してもいいですか?迫田さんには聞いて貰いたいんです。」

すみれは真剣な顔をして自分をみつめる迫田に再び話し始めた。

「私は東京で祖母と叔父に育てられることになりました。祖母も叔父もとても私に優しく接してくれました。私は特に叔父が大好きでした。叔父は内気で泣き虫な私にいつも勇気と元気をくれました。叔父は私の一番星でした。」

「・・・・・・。」

「でも私がわがまま過ぎて、叔父の幸せを考えてあげられなくて、小さな女の子のままで甘えてばかりで。叔父の人生の大事な時期を消費させてしまいました。」

「・・・すみれさんはその叔父さんが好きだったんだね。」

「はい。大好きでした。今も・・・。」

「今、その叔父さんは・・・?」

迫田の言葉にすみれは大きく首を振った。

「叔父とはもう会えません。でもそれでいいんです。」

「そうか。」

すみれの悲し気な表情を見て、迫田もなにかを察したように頷いた。

「じゃあ、俺をその叔父さんだと思えばいい。すみれさんの叔父さんには負けるかもしれないけど。」

「嫌です!」

大きな声でそう叫んだすみれに、迫田の表情が固まった。

「すみれさん・・・?」

「迫田さんは迫田さんです。」

「そうだよな。・・・ごめん。」

「違うんです。迫田さんはなにも悪くありません。でも迫田さんを叔父だとは思いたくないんです。」

すみれは瞳を潤ませながら、そう言って迫田の顔をみつめた。