すみれの洗い物が終わったタイミングを見計らって、ソファから立ち上がった迫田が腕を組みながら尋ねた。

「君は誰?お袋の紹介ってさっき言っていたけど、お袋とはどういう関係?」

エプロンを外し終えたすみれは、迫田の顔をまじまじと見上げ、大きくお辞儀をした。

「はじめまして。」

そう言ってすみれは微笑んだ。

「私は野口すみれといいます。迫田さんのお母様とは、とあるサイトで知り合いました。」

「サイト?」

「はい。自分のペットを紹介しあうサイトです。私はうさぎを、えっと名前はららっていうんですけど、そのららの写真をそのサイトにアップしていたんです。そしたら迫田さんのお母様がそれをすごく気に入ってくださって。そこからメールで交流が始まりました。」

「・・・・・・。」

「お母様に迫田さんのことを相談されたのはこの春のことです。息子が手を怪我して一人暮らしなのに不自由してるって。心配だから家政婦を雇いたいって言われていたので、それなら私がって手を挙げたんです。奇遇なことに私の家と迫田さんの家は近所なんです。それに丁度勤めていた老人介護施設の契約が切れてしまい、就職先を探していたんです。」

「お袋との契約はどうなってるの?詳しいことを俺は全く聞いていないんだが。」

「はい。お母様は私の都合の良いようにしてくれればいいと仰られました。細かいことは迫田さん本人と話し合って欲しいと・・・。それで私の希望なんですが・・・出来れば毎日お伺い出来ればと思っているのですが・・・如何でしょう?」

すみれの申し出に迫田は少し考える様子を見せたあと、ためらいがちに言った。

「・・・そりゃ俺は助かるけど・・・その・・・君は怖くないのか?」

「何がですか?」

「男の一人暮らしの家だぞ?俺が悪い男だったらどうするんだ?」

すみれは迫田の目をみつめ、微笑んだ。

「迫田さんのその手の傷・・・小さな女の子を助ける為に階段から転がり落ちて負った傷だと聞いています。だから私は迫田さんが悪い人ではないと信じています。それに迫田さんがその時の後遺症で、時たま激しい頭痛に襲われることもあると聞いています。私はそんな迫田さんの力になれればと思って今日ここへ来ました。」

すみれの言葉に迫田は薄く笑った。

「まったく君はお人好しだな。まあいい。君の手料理は俺の好みの味付けだ。とても美味かったよ。ありがとう。」

「いいえ。こんなもので良ければいくらでも作ります。今日も作り置きの料理をタッパーに詰めて冷蔵庫に入れてあります。夕飯にでも食べてください。」

「わかった。じゃあ明日から頼む。そうだ。君の給料は俺が払うから。お袋にもそう言っておく。」

「はい。わかりました。ではまた明日。」

迫田の家を出たすみれは、少しだけ心を開いてくれた迫田の様子に、心地よい充実感で心が満たされていた。