冷たい小雨が降りしきる冬の午後、10歳のすみれは黒いワンピースを着たまま葬儀場の中庭で、ただ茫然と立っていた。

空は重く濃い灰色の雲が覆い、あたりはまるで夕闇のように薄暗かった。

雨のカーテンで視界はぼやけていた。

自分が置かれている現状がまだ実感出来ず、悪い夢の中をふらふらと彷徨っているように思えた。

泣き腫らした目からは、もう一粒も涙は出てこなかった。

3日前まですみれは、両親に囲まれた温かい箱庭の中で、ぬくぬくと暮らしていた。

テストの点数が良い時は大袈裟に褒めてくれるパパ、私の話に耳を傾けて優しく微笑むママ、すみれが頼るべきふたりはもうこの世にはいない。

どうしてパパとママは私を置いて旅立ってしまったの?

私が学校のテストで悪い点を取ったから?

お手伝いをさぼったから?

どう償えばパパやママは帰ってくるの?

これは神様が下した私への罰なのだ、とすみれは思った。

その胸の奥に突き刺さった矢からは、後悔で濁った血がどくどくと流れていた。

命とはなんだろう?

誰が命の終わりを決めているのだろう?

そんな問いかけを空へ投げかけてみても、幼いすみれにその答えを知るすべはなかった。