その音色を聴いて、ビオラさんは1歩、また1歩と後ろに下がった。……逃げるつもりなんだろうか。

『……呪具の力が強いからか、一気に解呪するのは無理みたいですが……少しずつ効いているみたいです』

八咫烏の言葉を聴きながら、僕はビオラさんの様子を窺う。何かあった時のために、すぐに動けるようにしたまま。警戒は怠らない。

笛の音に混ざって、微かに音がした気がして、僕が音がした方を見てみる。笛を吹くティムの後ろには、杖を持った紫みがかかった黒髪のーールシフェルさんがいた。

……嫌な予感がする。

僕はその場から動かずに、ルシフェルさんに向かって攻撃魔法を放つ。それに驚いたのか、ティムは笛を吹くのを止めた。

「ルーチェ、いきなり何を……」

何かを言いたそうにするティムに、僕は「気にしないで続けて」と指示を出す。

ティムが戸惑いながらも再び笛を吹こうとすると、ルシフェルさんはティムから笛を取り上げた。

笛が取り上げられたことで、ティムは後ろにルシフェルさんがいたことに気がついたみたいだ。

「綺麗な音色がしたから来ちゃった。この笛、君の?君、すごいね」

ティムを見つめながら、ルシフェルさんはニコリと笑う。その笑みを見て、僕はゾッとしてしまった。笑ってるのに、笑ってないように見えたから。

「ビオラくん、大丈夫?少し、休んでな」