蝋梅の甘い香りが漂う1月下旬の昼休み。
まどかが通う進学校でも、独特の雰囲気に包まれている。

在校生のほぼ全員が進学する高校ということもあり、学年末の試験を目前に控え、いつにも増してピリピリしてもおかしくないのだが……。

「朝陽く~ん、クッキーとマドレーヌなら、どっちが好み~?」
「う~ん、美味しいなら何でもスキ♪」
「えぇ~やだぁ~『スキ』だなんてぇ~」
「あっ、美穂、抜けがけズルい~~っ」
「抜けがけなんてしてないよっ、チョコの好み聞いただけだよね?」
「うん、そそ。みんなケンカしちゃダメだよ~?」
「「はぁ~~い」」

バレンタインを控え、朝陽目当てにフライング気味にチョコを渡すことを予約する女子。
まどかのクラスの女子だけにとどまらず、学年の枠を超え、ひっきりなしに声がかかる。
しかも、それは高校内にとどまらず、近隣の高校の女子や中学生、大学生や社会人に至るまで、当日を待ち侘びている女子は多い。
そして、それは……朝陽だけでなく、廉に対する想いを秘めている女子も同じく多くて……。

「あっ、上條君いたっ!」
「ねぇ、上條君、甘いの好き~?」

和香の言葉でチラッと視線を上條君に向けると、教室の入口で他のクラスの女子に声を掛けられている上條君を捉えた。
お昼休みの間、次々と女子が近づいて来るからフラ~っとどこかに消えたけど、お昼休みが終わり時間に近づき戻って来たところを捕まった。

「あーまただ」

和香が冷めた目で教室の入口を塞いでいる彼らを見ている。