「あ、ごめんっ、……泣かしたいわけじゃなくてっ」
「……ぅっ…」

嫉妬されることが嬉しくて、ついついいじめすぎてしまった。
潤んでたけど、本当に泣くとは思ってもみなくて。
やばっ、どうしよう。

指先で目元を拭う彼女を抱き締めた。
それ以外に思いつかなかった。

「小森」
「…っ……んっ」
「あの人、……兄貴の婚約者」
「………ふぇっ?」
「来年の6月に結婚するの、あの人。で、俺の義理の姉になる(りつ)さん。24歳で大学1年の時から兄貴と付き合ってて、今年で7年目。今兄貴が父親の会社の海外支店に赴任してて。昨日、律さんの誕生日で、兄貴が予約注文しておいた指輪を昨日受け取りに一緒に行ったってわけ。その後は、年末年始の休みに兄貴のとこに行くらしくて、そのためのプレゼント選びに付き合った」
「………えぇ~っ!?」
「だから、彼女は彼女でも、兄貴の彼女だから」
「っ~~~~」

泣き止んだかな?
抱き締める腕を解き、小森の顔を覗き込む。

「俺が好きなのは小森なんだけど」
「っ……」

涙で濡れた長い睫毛。
頬に残る涙の痕。
口元を手の甲で隠していても、頬がほんのり赤くて照れてるのが分かるから。

もうどうしようもなく可愛すぎて、やばっ、好きすぎるっ。

初めて、小森の気持ちがほんの少しでも傾きかけてるって分かったから。
この上なく嬉しくて。
両想いだったら、キスするタイミングなんだろうけど。
まだ小森の気持ちをちゃんと聞いてない。

「小森は?……俺のこと、どう思ってんの?」

口元を覆う右手を掴み、俯いている彼女の顔を覗き込むと。

「知らないっ、意地悪な上條君、大嫌いっ!」
「なっ…」

予想もしない答えが返って来た。