「俺の番号、登録してない?」
「へ?……ううん、してある」
「じゃあ、何で連絡して来ないの?」
「っ……、話すことが見つからなくて」
「別にそんな深く考えなくても、“今、何してるの?”とかでもいいだろ」
「あ、……うん」
「小森からの連絡待ってたんだけど」
「えっ?」

朝陽に心を読み解かれ、雅さんにも気付かれた。
顔色一つであの鈍感な虎太郎にも気付かれた廉は、小森への想いを自覚した。

クラスメイトの男子だろうが連絡先を教えない廉が、小森には自ら書いて渡したくらいだ。
夏休みに入って2週間。
毎日会えなくなったというのも加わって、廉の心は複雑な心境に陥っていた。

今まで誰かを好きになった事も気になった事すらない廉。
初めて気になった相手が、まどかだ。

「勉強、分かんないとこあったら教えるし、長瀬に送るみたいに送ってくれていいから」
「……うん」
「で?……今日は何の買い物すんの?」
「あっ、……あのね、3日後が両親の結婚記念日なの。そのプレゼントを買いたくて」
「へぇ~、結婚記念日か。この前も話してたけど、仲いいんだな」
「う~ん、そうだね。可愛がって貰ってるかな。でも、未だにラブラブだから、たまに目のやり場に困るけどね」
「は?……娘の前でいちゃついてんの?」
「うんっ、もう慣れてるけど」
「うちじゃありえないな、それ」
「上條君のご両親って、どんな感じ?」
「うちは仕事人間かな。会社経営してるから、常に会話は仕事のことだし」
「そうなんだね。でも、それが普通なんじゃないかな?うちがちょっと異質なんだと思ってるけど」
「まぁ、仲が悪いよりはいいんじゃね?」
「フフッ、そうだね」

廉とまどかは他愛ない会話をしながら、渋谷駅周辺から表参道へとショップ巡りを始めた。