修了式の放課後。
1年間過ごした教室を後にし、駅へと向かう道中。
「上條、ちょっといい?」
「……ん?」
“顔貸しな?”的な雰囲気に、仕方なく頷いて。
「まどか、ちょっと長瀬と話して来る」
「ん」
「朝陽、まどか見てて」
「はいはい」
他の男が寄って来ないように、朝陽に託す。
隙あらば言い寄る男が、未だにいるからだ。
まどかから数メートル離れた後ろを長瀬と歩く。
「4月1日、何の日か、……知ってる?」
「エイプリルフール?」
「出直して来な」
「は?……喧嘩売ってんの?」
「ん」
言葉はナイフのように鋭利だけれど、言葉の重みを理解した。
次会うのは3年になる始業式だからだ。
今、言っておかないと伝えられないことがある、と。
それらを総合的に汲み取ると。
4月1日は『まどかの誕生日』だということだ。
「長瀬の言いたいことは分かった」
「夕食までに自宅に帰すんだよ?」
「ん、分かった」
毎年、誕生日は自宅で祝うと言ってたもんな。
「それと」
「……何」
「もう少し、オス化しても平気だよ」
「は?」
「大事にしすぎると、さすがのまどかも痺れ切らすって言ってんの」
何だよ、それ。
「まどかんちの両親、超絶ラブラブな夫婦だから」
「……あ」
「それ見て育ってるから、……あの子」
「っ……、善処します」
超恥ずいっ。
公開処刑じゃん、これ。
バンッ。
思いっきり背中を叩かれた。
「ぃっってぇなっ」
「気合入れてやったんだから、有難く思え」
「っ……」
言葉に棘があるけど、やっぱ長瀬は嫌いじゃない。



