担任が後ろのドアを閉めるように指示を出した直後。
教室内に悲鳴に似た、女子の甲高い声が響いた。
その声の主は、俺の後ろの席の子。
少し遅れてやって来た彼女は、江藤が閉めたドアに指を挟んだようで指先を押さえている。
「小森、指、平気か?この後、歓迎会でピアノ弾くだろ」
「あ、……はい。でも、大丈夫です、大したことないので」
「それならいいが。……一応、SHR終わったら、保健室に行っておきなさい」
「……はい」
担任とのやり取りで漸く線が繋がった。
この間見たあれは、歓迎会に弾くための練習だったようだ。
SHRが終わると、小森の元に長瀬が駆け寄る。
「まどか、大丈夫?」
「……ん、ちょっと痛むけど、たぶん大丈夫。保健室に行って来るね」
「うん、……冷やしておいで」
背中越しに聴こえて来る会話。
痛みがあるらしい。
「委員長(小森)、ごめんね?」
「大丈夫だから、気にしないで」
申し訳なさそうに謝る江藤ににこっと微笑み、小森は教室を後にした。
*
1時間目の全校集会。
歓迎会が行われる体育館内ではクラスごとに整列して、前方のステージ脇にいる留学生に生徒の視線が集まる。
そこに指先にテーピングを巻いた小森が歩いて来た。
何やら生徒会長と話している。
「あの手じゃ、無理だろ」
「あ?……廉、何か言ったか?」
「……ちょっと、行って来る」
「行くって、どこに?」
廉の言葉に驚く朝陽をよそに、廉は列からそっと抜け出した。



