彼女の自宅まで送り届ける道中。
2月下旬の夜は足先がジンジンと痛むほどに冷え込んでいる。
両手を口元に当て、はぁ~と息をかけて温めてる彼女の左手をそっと掴んだ。

「ごめん、右手はコートのポケットにしまって」
「……ありがと」

小森の手は思ってた以上に冷たくて。
指先を絡めて自身のコートのポケットにしまって、指先を擦り合わせ温める。

「おねだり、1つしていい?」
「ん?あ、うんっ、もちろん、いいよ」

にこっと微笑む小森を視界に捉え、足を止めた。

「さっき、バースデーソング歌ってくれたじゃん?」
「……ん」
「初めて、……名前呼ばれて、すっげぇ嬉しかったんだけど」
「………あっ」
「今日から、下の名前で呼んで欲しいんだけど」
「っ……、そんなすぐに「朝陽は朝陽君って呼んでんじゃん」
「ッ?!……あ、そうかも」

思い返してるのか、視線を泳がせる小森。

「バレンタインの何日か前にね?上條君の好きなスイーツを聞いた時に、朝陽って呼んでね~って言われて」
「あいつ、抜け駆けしやがったな」
「……ごめんね?あんまり深く考えてなかった」
「じゃあ、今日からちゃんと考えて、俺のこと」
「っ……、はい」
「廉って、呼んでみ?」
「っ………、れ、ん、君っ」
「君、要らない。それじゃあ、朝陽と同類じゃん」
「っ………」

恥ずかしがる小森をじっと見つめる。

「……廉っ」

照れながら呼んでくれた。
ぶわっと胸の奥から嬉しさが込み上げて来る。

「まどかの声、俺結構好き」
「っっっっ~っ」

大きな目が更に大きくなった。
驚いた顔も照れる顔も困った顔も、全部可愛いっっっ。

虎ノ門ヒルズ駅へと向かうビルの谷間。
初めての彼女との初めてのデート。
初めてでこチューして、初めて名前呼びした記念日が自分の誕生日って、一生忘れないよな。