私は鞄から袋を出した。そして、彼の目の前に置いた。
「なんだ?」
「開けてみて……」
彼が袋を開けてそのハンカチを手にした。そして、じっとそれを見つめると私へ視線を返した。やはりあなたのものだったのね。私に何も尋ねない。
「あなたのでしょ?イニシャルが入ったハンカチなんて持っている高校生の男の子。普通の家ではないと大人になって気付いたけど、顔が思い出せなかった」
「どうして俺だとわかったんだ?」
「おばあちゃんの病院の中庭で急に思い出したの。家元を継ぐことを色々迷っていたけど、思い出したら吹っ切れた。昔、制服を着たお兄さんと約束したもの。たしかおうちの仕事を一緒に将来やろうねって……。ハンカチを探したらびっくりした。あなたのイニシャルだった。偶然かもしれないからあなたのおばあさまに確認した。当時玖生さんが病院へ来ていたか思いきって聞いてみたの。そしたら……」



