懐紙で涙を拭っていた私の顔を見ながら言う。

 「玖生を信じる気持ちはある?家元から少し聞いているわ。あなたが前お付き合いしていた人も御曹司だった、そして結婚相手として別な人をご家族が選んできたそうね。あなたが玖生と付き合わないのはそういったことがあるから踏み出せない。違う?」

 私は小さくうなずいた。

 「清家はそのようなことしたくない。でも、あなたがあの子を信じて全てを預けると決めてくれないと主人の計画をあの子も私も無視できない。わかるわよね」

 「……はい」

 「大切な言葉はよく考えてからあの子に伝えてあげてちょうだい。あなたの一生よ。あの子と一緒にならなくてもあなたの仕事はそのままだし、家元のお仕事を私が出来る限りお手伝いすることは変わらないわ。私の言葉に惑わされず、自分の気持ちを見つめなさい」

 「大奥様……ありがとうございます……」

 「あなたがもし清家に来る気があるなら、私は全力であなたを支えましょう。家元の仕事もしながら出来るようにしばらくは私も手伝いますよ。あの子の母はすでにいないのですからね。でも、よく考えて。甘い仕事ではありません。それだけははっきり言っておきますよ」

 厳しい顔でそう言い置いた。だが最後には優しく微笑んで背中をさすってくれた。私にとって大切な助言だった。そして、答えを出すために真剣に考えはじめた。