「……あっ」
「ごめん。許してくれ。君に抱きしめられて理性が飛んだ」
首筋に彼が唇を押し当てたのに気付いたが、突き放したい気持ちにはなれなかった。私も彼を意識しはじめているのはわかっていた。
彼はそっと私から身体を離すと携帯で運転手に連絡をした。
「由花。戸締まりきちんとしろよ。大丈夫だろうな?」
「うん。気をつけてる」
「よし。それと、家元の仕事で忙しいならエントランスの花のほうもしばらくやめていいぞ」
「ううん。それは絶対やりたい。時間をずらして早めに行ってもやりたいの。できれば受付の同僚にも会いたいし、あのエントランスはとてもいいの。活けるのが楽しくて。やらせて下さい」



