「いずれ結婚するだろうと思い、口を出さずに待っていた」
父が言う。父は自分のせいで俺が女性と結婚しないのを知っている。この仕事が忙しく、家族を顧みる時間がないかもしれないと一度言ったことがあるからだ。
この不用意なひとことが父を追い詰めた。母のことを俺が暗に言ったと思ったはずだからだ。俺は後悔したが遅かった。父はますます仕事から遠ざかった。
「実は好きな人がいます。彼女もうなずいてくれるなら、結婚したいと思っています」
「母さんが紹介した、お花の先生の孫だろ?聞いている」
父さんがこちらをじっと見ながら言った。
「彼女は両親がいないそうだな。しかも今そのただ一人の肉親であるおばあさんも入院中と聞いた。母さんがお前に紹介したのは結婚相手ではなく、できればお前が女を遠ざけているのを治すためきっかけにしたかったようだぞ」
「……そうですか」



