『今日の天気をお伝えします。西の空に雨雲が発達しており、東日本では夕方、天気が崩れやすくなっています。局地的に大雨となるところも――、』




 よいしょ、と肩にかばんをかけた私の耳に、テレビからなめらかな声が滑り込んでくる。




 天気が崩れやすいって。

 え、午後から雨なの?



 思わず窓の外を見やるけれど、……ばりばり、快晴なんだけど。




「一応、傘持って行っておきなさいよー」




 キッチンからお母さんの声が飛んできて、ハッと時計に目をやった。



 長針は、8と9の間。





「やばっ、電車遅刻するっ」




 悠長にニュースなんて見てる場合じゃなかったっ。

 慌ただしく靴を引っ掛けて外に出て、「あっ」、と気づいた。




 結局、傘、忘れちゃった。




 小走りに駅へと急ぎながら、空を見上げる。

 広がっているのは、雲ひとつない青空。




 ……こんだけ晴れてれば、きっと大丈夫だよね。

 その時の私は、あまり気に留めずにいた。





 
 ――思えばこれが、歯車の狂い始めだったのかもしれない。