電車で五駅。片道二十分。
家から比較的近いという理由もあって、選んだこの高校。
重厚感のある「聖 桜嵐学園」の銘板の文字を目にすると、いつも何となく、背筋が伸びるような気がするのだった。
肩に掛けているスクールバッグには、やっぱりいつも通りのラッピング袋が潜んでる。
スキップしたくなる気持ちを抑えながら、グラウンドの横を通り過ぎようとした時だった。
「きゃ〜っ!蓮くん、ナイス〜!」
「さすが “ 完璧王子 ” ! ! 」
ちょうどシュートを決めたところだったのか、双星くんがホイッスルの音とともに颯爽とベンチに向かっている。
汗拭きタオルと水筒を持ち上げたところで、それを目ざとく目視した女子たちがあれよあれよと彼を取り囲んでしまった。
「蓮くん、これ良かったら使って!」
「今日も朝早くにお疲れ様。私、おにぎり持ってきたよ」
「スポーツドリンク、買ってこようかっ?」
ライオンもトラも豹もびっくりのアピールっぷり。
大変そうだなぁ、と他人事に不憫に思っていたら、「ああっ」と若干黄色みの混じった声が。
「そういうの、練習の邪魔にしかなんないんだけど」
ありとあらゆるアプローチをばっさり切り捨ててコートに戻っていく双星くん。
残された出待ち女子らはそれを名残惜しげに見つめる。
「蓮くんつれないなー」とか、「けど塩なところもまた良いよねぇ」とか、語尾にハートが付いていそうな声もちらほら。
そうだよね。うん、モテ男子だもんね。
あまりの人気ぶりに、改めて圧倒されてしまった。
あんな風に冷たくあしらっても、女子にきゃーきゃー言われるのはなぜなのか。イケメンの特権と言うやつなのか。
とにもかくにも、ここ最近週1で二人きりになってるからか、どうやら私の感覚は麻痺していたらしい。
菓子王子こと完璧王子の人気は健在のようだ。
「お疲れ様です」
本当、色んな意味で尊敬するなぁ。
無意識にそうつぶやいてから、私は止めていた足を再び校舎へ向けた。
昇降口に入ると、まだ早い時間だからか、人気はなくひっそりとしている。
遠くで鳴るホイッスルを聞きつつ、靴箱を開けた時だ。
――カサリ。