翌日、拓斗は心弾む気持ちを必死で抑えながら、いつものファミレス、いつもの席で茜を待っていた。

 だが、時間がきても茜は姿を現さない。スマートフォンを確認するが、着信もメールもなかった。

(どうしたんだろう?)

 三十分程度が過ぎた頃、拓斗は痺れを切らせて茜に電話をかけてみた。

(あれ? 取らない)

 しつこく待つと、今度はプチンと切れた。

(え?)

 留守電になるわけでもなく、いきなり切れたのだ。

 慌ててかけ直すと、今度は電波がつながらないか電源が入っていないかでかからないというアナウンスが流れた。

(どういうことだ? 茜?)

 結局その日、茜は姿を現さなかった。

 夜になって電話をかけても茜は取らなかった。最初は心配だった気持ちが、次第に苛立ちに変わる。イライラしながら課題をこなした。

 さらに翌日、茜が学校を休んだ。

 担任に欠席の理由を聞くと体調不良だということだったが、なんとなく納得できない拓斗は見舞いと称して様子を見に行くことにした。

 しかしながら出迎えた母親は、会いたくないそうだからと断ってきた。

「一昨日ぐらいから元気がないのよ。せっかくきてくれたのに、ごめんなさいね」
「あの」
「あ、それから、えーっと島津君だったわよね。茜の勉強を見てくれてたんだって?」
「え? あ、はい」
「お料理の専門学校に進むことにしたから、勉強はもういいそうなの」
「…………」
「また学校で本人からきちんと話してお礼を言うと思うけど、ごめんなさいね」
「あ、はい」

 茜の母に向けて丁寧に礼をすると、拓斗は駆け出した。

 なにかあったことは明白だ。だが、思い当たるものはない。まるで一方的な別れを宣言されたような印象だった。

(そんな――だって! こんなにいきなり、理由も言わずに!)

 駅のベンチに座る。

 一歩進んだ友達関係になろう――そう言って笑い合った駅のベンチ。拓斗は混乱する気持ちを必死に押し止め、メールを打った。

(せめて理由を聞かせてくれ、茜!)

 返事はすぐにきた。慌てて展開すると、ただ一文。

『ごめんね、勉強は必要なくなったから』

(茜……)