おともだち

　私、の事だよね。心臓がバクバクする。聞いていいのかな、これ。でも、足が動かなかった。


「それで、宮沢さんどうしたんですか？　そのまま諦めたんですか？　」

　栄司がふっと笑った気配がした。

「まさか」
「何ですか、宮沢さん、その悪い顔」
「あ、わかった。絶対に惚れさせるんだ！　」

　栄司は顔かジェスチャーで返事をしたのか私には聞こえない。でも、彼女たちの反応は……。
　
「わぁ！　宮沢さん結構悪い感じなんだ。相手が宮沢さんを好きになったらどうするんですか」
「キャー、振った腹いせ、復讐！？　」
「ははは、ほら、昼休み終わっちゃうよ、行こう」

　栄司が促すと、足音が下りてきて、私はその足音に紛れ、追いつかれないように急いだ。

「そうだなぁ、相手が……」

　栄司が歩きながら話の続きを始めたけど、私には聞こえなかった。

　外に出てずんずんと歩く。そっと振り返り、誰もいないのを確認すると足を止めた。視界の先、アスファルトとパンプスがぼんやりと霞んだ。

　何て言った。
　どういうこと。

　心臓が早く脈打ったまま。不穏な言葉に胸が痛い。息が苦しい。

『腹いせ』だとか『復讐』だとかは、私が好意を捻じ曲げたことに対してかもしれないから、仕方がない。
　でも『絶対に惚れさせる』は……。
　
　私の今の感情は栄司の意図によって生まれたもので、単に栄司の手のひらで転がされていただけなんだろうか。私の気持ちが自分に向けられたとわかると、突き放されるんだろうか。

　そんな……そんなことって。

「……あれ、仁科。仁科じゃない？　どうしたこんなとこで立ち止まって、おーい」

　誰かの声がして、ハッと顔を上げた。そうだ、今はお昼休憩で……。

「……加賀美くん」
「おー、よく会うな」

　彼はなつっこい笑顔を私に向けた。