おともだち

 ――何だか不安で、栄司を他の女子社員から遠ざけたい気持ちになる。
 私にそんな権利がないのはわかってる。でも、ランチくらい誘ってみようかな……。偶然じゃなく、ちゃんと前もって2人でいけるように。今の栄司だったら私と二人でランチに行っても何かしらの疑いを向けられることもないだろうから。

 うだうだ考えているうち、結局ランチに誘えないまま、他の社員が栄司をランチに誘いませんようにと祈る。
 そして、昼休み。わずかな期待を持って階段を使った。まだ早かったのか、誰もいない様子だった。静かな空間にコツンコツンと自分のパンプスの音だけが響く。こんな時に栄司が出て来てくれたらいいのに……。

 ガチャッっと上階の階段のドアが開く音がして、急に賑やかになった。どこかの部の人たちが昼休みでまとまって下りて来たのだろう。

「……あはは、そうかな。でも俺、自分から告白したいから」
 栄司だ。そう把握した瞬間、会話相手の声が聞こえた。
「あ、じゃあこっちから告白してもダメなんだ。残念だなぁ。宮沢さんに告らせるなんて難易度高いじゃないですか」
 小柴さんだ……。さっと血の気が引いた。
「だいたい宮沢さんに告白されて断る人いないでしょう」

 もう一人の声が聞こえていくらかホッとする。良かった。二人じゃないんだ。でも、口調から三上さんではなく、小柴さんの同期、といったところだろう。不安はまたぶり返した。

「そうだ、そうだー! 宮沢さん振られたことないでしょう」

 小柴さんが煽る。話が盛り上がったのか、誰かが足を止めたらしい、それ以上下りて来る気配がなく私も立ち止まって聞き耳を立ててしまう。階段は随分と声が響く。


「あるよ、ある」
「え、嘘でしょ。何で」
「何でって、あー……何で? そうだな、求めるものが違う、というか、単純に俺に好意が無かったんじゃない? 」

 ドクン、と心臓が大きく鳴った。多分……私のこと……だ。