おともだち

「そんな警戒しなくても。会えば話すくらいいいじゃん。逆に不自然だろ」

 声のトーンを下げ、栄司が笑う。やっぱり、さっきの態度は変だと気づかれた。

「違うの、何か、栄司が女の人と一緒にいるの珍しいなーと思って」
  
 言ってしまってからカッと顔が熱くなった。何言ってるの、会社での栄司の人間関係なんて全然知らないくせに。遠まわしに探りを入れたみたいじゃない。

「あー、そうそう。最近は意識して色んな人と話すようにしてるんだ」
「え? 」
 パッと顔を上げて見えた栄司の表情から、栄司が私の言葉を深く考えなかったみたいでホッとする。

「うん。俺、わりととっつきにくいみたいで、気さくな人間だよってアピールしてんの」
「はは、何それ」

 そう言えばこの前もそう接点がないはずのうちの部の辰巳主任と飲みに行くくらい仲良くなってたけど、そういうことなのかな。

 栄司がスッと周りに視線を走らせ、誰もいないことを確認すると私に耳打ちした。
「『セフレがいそう』なんてイメージ持たれたら困るからね」

 私は慌ててそっち側の耳を押さえ、栄司から距離をとって睨む。

「ははは、じゃあね」

 近い距離でにっこり笑うと栄司は私に背を向けた。

 な、な、なにを……!?

 からかわれたんだ。悔しくなって何か言い返そうにも、もう栄司はいないし。……もう!
 会えば、どう思うか、なんて……。まだ心臓がバクバクする。近づかれてこんなに落ち着かないのに、嫌じゃない。むしろ、他の女の人と話している時のもやもやした気持ちが今はすっかりと晴れてしまっていて……。

「もう! 」
 誰もいないのをいいことに、声に出した。熱を逃してからしか席に戻れないじゃないの。